朝鮮における食糧援助活動から撤退した
国際的飢餓救援団体「ACF」による
朝鮮の実態報告に対する批判声明


2000年5月8日

朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン(ハンクネット・ジャパン)
Humanitarian Aid to North Korea, Network in Japan


フランスを主要本部として国際的な飢餓救援活動を行なっているNGO、Action Contre la Faim(英語名 Action Against Hunger、「反飢餓行動」ほどの意。以下「ACF」と略称。)が、さる3月9日、朝鮮民主主義人民共和国(以下「朝鮮」と略称。)における国際食糧援助について、援助をもっとも必要としている階層の人々に食糧がわたっていないと主張し、朝鮮での支援活動から撤退すると表明した。そして、その理由や背景を3月9日付けの声明文および報告書で明らかにした。ACFは、それらの声明文と報告書をつぎのインターネット・サイトなどを通じて世界に公表した。

http://www.acf-fr.org/eng/homefm.htm
http://www.aah-uk.org/eng/homefm.htm
http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf/

ACFは、3月9日付けの声明文の中で、つぎのように述べた。

「朝鮮の住民のうち、栄養失調にかかっているもっとも弱い人々の集団に近づくことができないという事態に直面して、ACFは援助プログラムを停止し、朝鮮から撤退することに決めた。1998年 1月以来、ACFは、[朝鮮北東部の]咸鏡北道の栄養失調の子どもたちへの栄養支援を行なってきた。この道は人口がきわめて多く(220万人)、慢性的な食糧不足を経験している。今日、咸鏡北道は経済活動のほとんどが停止しており、生存のためにもがき苦しんでいる。
 …
われわれは、朝鮮へ送られる国際援助が、それをもっとも必要としている人々に届いていないと確信した。われわれは、もっとも貧しい家庭を訪問する許可を得られなかったが、そこでは子どもたちが家にいるようとどめられて、いかなる援助も断たれ、そして、実質的には死を運命づけられているのではないかと、われわれは怪しんでいる。」

わたしたち、日本在住の一般市民によるボランティア団体である朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン(以下「ハンクネット」と略称。)は、海外の他のNGOなどの独自の見解や決定になんらかの利害を持つものではない。しかしながら、今回のACFの主張や報告書の内容は、朝鮮の食糧危機に憂慮の念をいだく多くの人々にとって、見過ごすことができない影響をあたえかねないと思われる。わたしたちハンクネットにとっても、そうした可能性はありえた。

なぜなら、上記のようなACFの主張が、もし、じゅうぶんに検証されることなく国際社会に真実の事柄だと受け取られてしまうならば、朝鮮の食糧危機をめぐる状況がきわめて政治的、イデオロギー的な観点から単純化してとらえられることにもなりかねない。そして、そのことは、あれこれ食い違うさまざまな見方や解釈にまどわされず、食糧が不足し、多くの人々が苦しんでいるというまちがいのない事実を前にして、無条件の人道的な動機から、少しでも多くの援助を送ろうとしている心ある人々の真剣で地道な努力に、水を差すような悪影響すらおよぼしかねないと言えるからである。

けれども、まず、わたしたちが何よりも忘れてならないことは、朝鮮に対する支援活動というものは、世界でももっとも困難な、難しい活動のひとつだと言えることである。なぜなら、朝鮮戦争休戦以来、朝鮮半島ではいまだ平和条約が結ばれておらず、いぜんとして南北が軍事力で対立し、形式的には準戦時下のような状態がつづいてきたのであり、また、国際社会のうち、日本をはじめ少なからぬ国々が朝鮮との国交を持たず、じゅうぶんな信頼関係のない不正常な国家間関係のままだからである。

そこで、わたしたちは、国際連合の朝鮮支援関連部局が今回のACFの朝鮮からの撤退に関連して、3月31日 付けの報告書の中でつぎのように述べたことに注目したい。

「1998年11月の合意声明は、朝鮮におけるあらゆる機関とNGOによって作成されたものだが、それはいぜんとして有効であり、一部抜粋すれば、そこにはこう書かれている。すなわち、『われわれは、朝鮮における活動の制約と困難とを十分に認識している。われわれは、当地での継続的な駐在と建設的な関与によってのみ、説明責任を果たせる支援をおこなう立場に向かって努力できると信ずる。われわれは、この目的のために努力することに専念しつづける。』」(UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs (OCHA), DPR Korea: Humanitarian Situation Report: Jan - Mar 2000, http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsfより。)

わたしたちハンクネットは、国連人道援助機関や今なお朝鮮に残って支援をつづけている他のNGOなどと同じく、たとえACFが主張するように本当に食糧援助を必要とする人々の一部にこれまでまったく援助が届いていないとしても、可能なかぎり最大限の支援をつづけてゆくことが、やがてはそうした人々にも援助が行きわたる唯一の道だと考える。

それと同時に、わたしたちハンクネットは、今回のACFの声明文および報告書に対して、特に、わたしたちの見解を表明しておきたい。というのも、ACFの報告書の内容は、一方で、朝鮮の食糧難の実情についてのひとつの貴重な観察記録になっていると思われるものの、他方で、その結論的な主張については、必ずしもそのまま受け取ることができない、おおいに疑問をいだかせるものと言わなければならないからである。

すなわち、ACFの3月9日付けの報告書では、咸鏡北道チョンジン市などを中心とする朝鮮北東部の状況は、ひどく停滞した経済活動と今なお厳しい食糧事情がつづいていることが描き出されている。わたしたちハンクネットは、今回のACFの報告書の最大の価値は、これまで朝鮮国内で直接、支援活動にたずさわってきた海外NGOによるさまざまな報告のうちでも、もっとも詳細な実情報告のひとつとみなせる、こうした観察結果の記録と公表にあると考える。

けれども、他方で、ACFの3月9日付けの声明文および報告書で述べられている結論的な主張は、報告書の中でその根拠として示された事柄に照らしあわせたとき、必ずしも事実の実証的な裏づけにもとづく正当な主張であるとは認めがたい。さまざまな観察から引き出された解釈や認識は、他のあれこれの解釈の余地をおおいに残し、場合によっては、なんらかのいちじるしい誤解がふくまれている可能性すら排除できないものである。むしろ、多くの点で、きわめてずさんで、恣意的な解釈にもとづく、性急な主張であるとみなさざるをえない。

(別添の「資料」参照。)

しかし、そう考えるのと同時に、今回のACFの朝鮮からの撤退という問題に際して、それを機会に、わたしたちハンクネットは、ACFの観察や主張の中にふくまれうる問題提起に対する、もっとも適切な行動のあり方として、広く日本社会の各界各層に向けて、次のように表明し、呼びかけたい。

● 朝鮮の食糧事情において、ここ一、二年、全般に多少の改善が見られると報じられてはきたものの、これまでも食糧難が一般にもっとも厳しいといわれてきた北東部を中心に、今なお、莫大な数の人々が餓死の危険にさえ直面している可能性がある。

● それは、もっぱら、食糧援助が意図された受益者にまったく届かないためというより、何より、現地の人々が入手できる食糧の絶対量がそもそも大きく不足しているため、という可能性が高い。

● また、そうした情勢の中で、不十分な配給食糧や援助食糧をめぐって、特に地方では、一部の利己的な有力者たちによる何らかの不公正や横領などが起こっている可能性は否定できない。

● 今回、ACFが、その情勢を比較的詳細に報じた朝鮮の咸鏡北道チョンジン市周辺は、かつて日本から朝鮮へわたった朝鮮人帰国者の人々もかなり多く住む地域であり、日本人や在日朝鮮・韓国人のかつての友人や知人、それに、親族らも少なからず生活している地域である。それゆえ、日本に住むわたしたちは、特に咸鏡北道など、朝鮮北東部の情勢に特別の関心をいだくべきである。

● したがって、わたしたちハンクネットは、朝鮮の人々の民族的同胞である在日朝鮮・韓国人やその民族諸団体、また、もっとも近い隣国である、ここ日本の多くの心ある市民や諸機関、諸団体に対して、朝鮮北東部における食糧危機の状況にこれまで以上の関心をそそぎ、いっそうの支援の行動を起こすよう、強く呼びかけたい。


朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン
 (顧問)李仁夏、宮崎 学、喜納昌吉、辛淑玉
 (代表世話人)竹本 昇
 (世話人)李修二、李在一、米津篤八、文世一、岡田有生、康正和
                       (2000年5月現在)
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朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン(ハンクネット・ジャパン)
Humanitarian Aid to North Korea, Network in Japan
〒 518-8799 上野郵便局私書箱37号
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【ハンクネット関係者のそれぞれの思い】

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李仁夏(名誉牧師):

「今がもっと支援の時」

ハンクネット・ジャパンの一端に関わり始めたものとして、ACFの朝鮮からの撤退を悲しく思う。かれらの活動した咸鏡北道は、私が三歳から十五歳時、小学校から中学一年まで育った、なつかしい心の故郷である。今の韓国慶尚北道出身の亡父の職業上の移住で、私の中学は清津にある塾のようなもので、日本の総督命で閉校処分を受け、それが渡日のきっかけとなり、私の今日がある。

私の所属している在日大韓基督教会は八〇年代後半から、朝鮮基督教徒聯盟(在平壌)と祖国平和統一の祈りを共有するため、交流を重ね、韓国と日本の諸教会とのつなぎのロールを果し、朝鮮の牧師たちに自転車を送ったり、食糧支援のカンパを日本と世界の諸教会と協同で送ったりした。それは、韓国のキリスト教と諸宗教とが、北の宗教パートナーとの合意の下で続いている。ACFの行動によって、キリスト教側に人道支援に変化が起こったニュースは今の時点で受け取っていない。

一九九一年七月、先程紹介した北のキリスト者との交流プログラムの訪朝第二陣(四名)に加わり、平壌、金剛山の定型化されたコースだけでなく、幸いなことに、咸鏡北道の鏡城郡(清津の近く)の田舎で農業に従事している従弟三名と家族に会えた。真夏のことなのでコーン畑が青々と拡がっていた印象が残っている。最近の食糧事情は、当時も雑穀のまざる食卓(当時、私はソウル、東京の日常食に比べて健康食と思ったが)からして、潜在的食料不足はあったと思うが、三年も凶作が続けば、飢餓は当然に起こり得たと考えられ、朝鮮当局もそう主張している。ましてや冷戦構造の崩壊後、東側のドーナーの困難に直面している政治状況は、西側で支援していたアフリカの国々が援助を絶たれ、貧困、飢餓に襲われた構造に酷似している。この世界現状の理解が、まず、必要ではないだろうか。天災と人災(政治経済構造)の重なっている国の民衆の困難に目をつぶり、飽食にふける経済先進国の人々(含フランス人)の罪責は問われて当然だと思う。

その中で問われるのは日本に住む私共である。古々米と古米貯蔵に数十億かけながら、食糧支援をも含めて凍結を決議した国会の与野党一致の決議(昨年末から、その愚行に気付き始めたらしい。)は何だったろうか。テポドン一発で、心を閉じた日本に住む全ての人々が問われている。特に、冷静さを失った日本政府が問われている。それは一種の犯罪行為に類すると思う。(勿論、私はロケットだと言うなら、その実験を国際社会に事前通告しなかった、朝鮮の指導層を弁護しているつもりはない。)昨年の国会でガイド・ライン等一連の立法による国家主義台頭を許した力学上の問題は、日・米だけでなく朝鮮も問われると、専門家でない私も思う。しかし、ナチの台頭を許したと罪責告白をしたドイツの友人たち、同じように侵略を許した罪責告白をした日本人の友人たち、私も、そのうちの一人で、在日の戦後補償を求める行動をしているが、今、オーストリアのハイダーに類する石原都知事を支持している七〇%の排他主義者の価値観の歪みに向き合うのは、飢えている隣人の傍らに立った時、その波を返せる。

韓国の金大中大統領の呼びかけで始まる、南北頂上会談により、せめて、自由往来と北のインフラ構築による経済交流が始まれば、三年以内に北の食糧事情は変わるだろう。私個人が理事として関わるアジア学院(世界の農業指導者養成専門学校、栃木県西那須町)は三月の理事会で、朝鮮、中国からの留学生(一年間研修)の招待方針を打ち出し、韓国教会にその支援を要請することとなった。このような、新しい流れが創られるまで、ハンクネット・ジャパンの対北人道支援は終らない。この運動に誠実に関わり、今回のACF撤退のニュースをインターネットで追いながら分析した友人たちに感謝しながら。(在日大韓基督教会川崎教会)

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宮崎 学(作家):

隣の家の家族が飢え死にの危機に瀕している時、その家の親父が関白だと言う理由で助けないのは、最初から助けるこころなどない人間の逃げるための理屈である。

たとえ助けたものをその親父があいかわらず、勝手に一人で食べたとしたら、その親父は早晩関白でいられなくなるのは自明の理である。

私は支援する。

朝鮮の権力の現在の異常の根本的原因の一つは日本にあると私はかんがえる。原因があるから結果があるのだ。

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喜納昌吉(ミュージシャン)

我々はまもなく新しい世紀を迎える。古代の奴隷制度、封建制度から、近代へと、人類は確実に慈悲ある精神を基盤としたシステムを求め進化している。新しい世紀は、新たなる覚醒を得た人たちによって運営されて行くだろう。

それは地球を単位とした生命観に目覚めた人々の心である。地球の裏側であれ隣国であれ、共に生きているという感覚と心を持った人たちによって、新しい夜明けが建設されていくであろう。

陣営や思想によって分断される慈悲ではなく、シンプルに真実に基づいた行動をおこさなければならない。

未来に責任を持つものとして、フランスがどうであれ、私にとって朝鮮への米支援は避けて通れる問題ではない。

すべての人の心に花を

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辛淑玉(人材育成コンサルタント):

どの国の、どの人であれ、命は大切なのです。
人は食べなければ死にます。

人々の手に届かないからと言って諦めてはいけない。
ヒドイ国だからこそ、諦めてはいけない。

私は、あらゆる手段を使って支援を続けるべきだと思います。

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竹本 昇(地方公務員):

自己の価値観を押し付けて、それが受け入れられないと、食糧支援を打ち切り、人の死に、こうも冷淡なACFの人道支援に疑問を抱きます。

人道支援は、朝鮮の体制が問われているのではなく、人が死に瀕している事実に対して、人はそれを容認するのかどうか、という道徳的責任が問われている問題と考えます。

そういう意味で、食糧支援とは私たちの人間性を回復していく営みであり、同時に、それは朝鮮と日本の友好関係を築くことを可能にするものと思います。

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李修二(大学教員):

今回のACFの主張は、かなり曖昧な根拠でものすごく重大な事柄を断定しているようだ。見方によっては、コリアン民族全体をバカにしているとさえいえる。

けれど、他方で、朝鮮政府は、国際社会の真の人道主義勢力を遠ざけてしまわないよう、もっと努力するべきだ。

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李在一(福祉施設職員):

フランスの民間NGOである国際的飢餓救援団体「ACF」が朝鮮を去った。朝鮮の飢餓問題が解決したからなのか?
――そうではない。

ACFは過去数年にわたって、人道的見地から朝鮮の食糧不足の問題に取り組んできたという。これまでのACFの活動を心から称えたい。

しかし、そこに飢えた子どもたちがいる限り、支援を停止する如何なる理由があろうとも、人道という観点からすると、それを正当な理由として受けとめることはできません。

現地における当のACFの駐在員らの報告によると、なお朝鮮の特に北東部においてはきわめて深刻な食糧不足の実態が指摘されている。

にも関わらず、もし仮に国際機関をはじめあらゆる支援組織がACFの活動にならって支援を停止したとしたら、飢えた子どもたちの未来はどのようになるのでしょうか?

それで子どもたちの命が救われるという根拠があるなら、すべての支援組織はすぐさま人道支援を停止すればよい。そうやって支援を停止することで救われる命があるでしょうか?

もし一切の支援が停止されれば、少なくとも今よりさらに膨大な命が失われることはあまりにも明らかです。もしそうなれば私たちは今以上に膨大な死を知ることになることも必至です。

人道支援を停止する理由は、ひとつしか見出せないはずです。それは食糧問題が解決された状況に達したときである。

どれだけ困難な問題があろうと、私たち個々人は微々たる力でしかありませんが、そこに深刻な問題があり、失われていく幼い命がある限り、人道支援の必要性を今後もみなさんの良心と理性にこそ、訴え続けていきたいと思います。

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文世一(大学教員):

ACFの報告は、現地での経験に基づく貴重な情報を含んでいる。

同じ情報に接しながら、人々の意見は大きく分かれる。すなわち問題があるから食糧援助に否定的な考えを強める人もいれば、問題があるからこそ援助の必要性をより強く感じる人もいる。

私は断固として後者の立場をとる。

いま死に瀕している人々を救うためには、体制を変えることよりも食糧供給の増加を優先すべきと確信する。

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岡田有生(フリーター)

人道主義などの普遍的な思想を唱えて行動する場合、大事なのは、それを唱える者自身が、特定の政治的・経済的現実に規定されてものを考え、世界を見ているのだということを忘れないことです。そしてその現実は、飢えや苦しみの中に居る、彼らの眼前の民衆の現実と、ひとつながりのものです。

この事を忘れてしまうと、人道主義は、他者と関わる思想ではなく、自己の所属する既存の社会システムを支える、ひとつのイデオロギーに墜してしまうでしょう。

ACFの行動と主張には、そうした自己批判的な認識が見事に欠けている。彼らには、朝鮮の民衆の現実が、自分たちが生きている現実とつながったものとしては見えていないのです。

このような超越的・非人間的な「人道主義」は、ぼくたちが目指しているものとは、全く違っています。

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米津篤八(会社員・翻訳家):

ACFの撤退について、思ったことが3点あります。

1) 歴史認識の問題(フランスの朝鮮侵略の歴史)をめぐって、朝鮮側とACFの間に断層があり、それが今回のトラブルの遠因となっているのではないか。

2) 個人主義・普遍主義のフランス人には、朝鮮人の集団主義・民族主義的メンタリティーが理解できなかったのではないか。

3) 物が絶対的に不足し、絶対的貧困が支配している場所で、配給物資の横流しや闇市などの不正・腐敗が横行するのは、世界中共通の現象である。

以下、それぞれの問題点について、説明します。


1)の歴史認識について。

ACFは善意の第三者という立場をとっているようですが、朝鮮側は決してそうは思っていないだろう、ということです。

1866年のフランス艦隊の侵略行為について、朝鮮側がどう見ているかを知るために、日本の朝鮮学校の教科書(朝鮮歴史・中級学校2年生用)を読んでみます。(原文は朝鮮語。米津訳。ただしこの教科書は90年度のものであり、改定によって内容が変更されている可能性があります。ただ、朝鮮側の歴史認識の枠組みは、この教科書に示されている通りで問題はないと考えます。)

<引用開始>

 米帝侵略者につづき、フランスもわが国に侵入した。
 1866年8月、3隻のフランス侵略船が漢江に沿って忍び込んだ。奴らは、わが国に忍び込んでいた9人のフランス人宣教師が処断された事件を口実に、李朝政府を脅かそうとした。
 しかし侵略者たちは人民の頑強な気勢に恐れをなして逃走した。
 9月にフランスは再び7隻の軍艦に2500人の侵略者たちを乗せて、江華島に侵入した。このとき江華島にいた封建官吏たちは恐怖に脅えて逃げ出した。
 江華島を占領したフランス人侵略者たちは、人民を無差別に虐殺し、財産を奪った。また城内にあった貴重な遺物も破壊した。
 フランス侵入の知らせを聞いて、各地の多くの人民たちが駆けつけた。その中には銃の腕前がいいことで有名な平安道地方の猟師たちもいた。
 政府の軍隊と人民たちは、漢江河口にある文殊山城を守って戦った。彼らは襲いかかる敵を迎え撃ち、一気に60人も撃滅した。
 ソウルに攻め込むことを断念した侵略者たちは、江華島の重要な要塞であるチョンジョク山城を占領しようとした。
 しかし奴らの戦術を見破った軍は、夜の闇に紛れて江華島に渡り、チョンジョク山城に陣を敷いた。翌日、空き城だと思って近付いてきた敵は、わが軍の一斉射撃にバタバタと倒れた。
 2日間の戦闘で、100人余りの敵が死んだ。侵略者たちは船に乗ってあわてて逃亡した。

<引用終了>

このときフランス軍は、貴重な古文書や金塊などを奪い去りました。その古文書はいまもフランスの国立図書館に保管されており、韓国政府はその返還を求めていますが、フランスは応じていません。

つまりフランスは朝鮮にとって明白な侵略者であって、その行為はいまだに清算されていません。フランス人の方は、百数十年前に極東で起こった小競り合いなど覚えちゃいないでしょうが、朝鮮人にとっては大きな傷になって、いまも疼いているわけです。

「侵入した宣教師の処断を口実にした軍艦派遣」の歴史を思えば、善意からであっても、直接人民と接して援助活動をしたいとのACFの申し出を、朝鮮当局が拒否するのは当然でしょう。(ACFメンバーに万一のことがあって、それが国際紛争につながるという事態は、決して荒唐無稽な空想ではないと思います。)

一方、国連がまがりなりにも朝鮮で活動できているのは、朝鮮政府の自主性を尊重しているからに他ならないでしょう。

2)個人主義・普遍主義と集団主義・民族主義の対立について。

被侵略の歴史を背景にした朝鮮側の警戒心は、おそらくACFのフランス人たちには理解しがたいでしょう。

個人主義者・普遍主義者なら、こう考えることでしょう。侵略者本人ではない自分個人が、「人道的援助」という普遍的価値を実行しようとするのに、なぜそれを拒む理由があるのか。朝鮮側になにかやましいことがあるからではないか、と。

フランス在住の韓国人亡命者・洪世和氏の著書『セーヌは左右を分かち、漢江は南北を隔てる』によれば、ドイツのナチズムに手痛い目にあい、ベトナムとアルジェリアの民族主義に敗北したフランス人は、集団主義・民族主義を頭から否定する傾向があるそうです。

3)貧困と不正・腐敗について。

敗戦後の日本を見ても分かるように、モノが足りなければ、援助物資の横流しや闇市が発生するのは、どこでも同じです。いかに厳しく取り締まろうが、命懸けでやってる人間を止めることはできません。つまり、これは政治の問題ではなく、経済法則の問題です。

ですから、朝鮮政府に代わってACFが直接に援助をしたとしても、そうした不正・腐敗をなくすことは不可能でしょう。

仮にACFが直接援助をして、自分たちの手から飢えた子に食料を食べさせることができたとしても、それは公正でもなんでもありません。ACFの担当地域にいたその子らが、たまたま運が良かっただけのことです。目の前の子が助かれば、ACFの担当者は満足するかも知れませんが。

朝鮮政府は、数年前から自由市場=闇市の存在を黙認するようになりました。社会主義堅持という彼らの立場からいえば、これは本来ゆゆしき事態ですが、既存の経済機構が崩壊し、闇市なくしては食料の流通もままならないということを、朝鮮政府も認識したうえの、妥協なのでしょう。

強権的にブラックマーケットを潰せば、いまはなんとか食えている層が収入の道を断たれ、食料入手のルートを失って、飢餓状態に陥る危険すらあるのではないでしょうか。

結局、必要なところに援助を届かせるための根本的な解決策は、闇市での食料価格が十分に低下するほどに、大量の支援を継続的に投下しつつ、自律的な経済を回復させる以外にないでしょう。

日本にいる私たちが今後、朝鮮への支援活動を続けていくにあたって、人道が人道としてまっすぐ届くためには、いくつかのハードルをクリアしなければならないということを、ACFの撤退は示しているのでしょう。

朝鮮の現状は、半世紀、あるいは1世紀以上の間、もつれにもつれた歴史の反映です。ですから、解決に時間がかかるのはあたりまえです。思うように結果が出ないからといって、決して性急になってはならないと考えます。

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  (おわり)