プレスリリース:朝鮮制裁法案は民間人道支援を破壊する

 2004年2月5日、朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン(英名 Humanitarian Aid to North Korea, Network in Japan 略称:ハンクネット)は朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への経済制裁を目的とした「外国為替法」の改悪、「特定船舶入港制限法」および「再入国禁止法」の制定に反対する声明を発表した。また同日竹本昇ハンクネット代表世話人は国会を訪問し、小泉純一郎首相や河野洋平衆議院議長、倉田寛之参議院議長らに声明を提出、法案の撤回を求めた。
 これらの法案に反対する理由として、声明は、1.在日朝鮮・韓国人の歴史的経緯を無視し、本国の家族との繋がりを断ち切る人権弾圧法案である、2.自由往来や物資の輸送を困難にし、朝鮮への日本からの民間人道支援を破壊するということをあげている。声明の発表に際し竹本昇代表世話人は「ここ数年のうちに日本はチマチョゴリ事件で朝鮮学校の女生徒を、大学入学資格で朝鮮学校全体を差別した。今回の法案は更に在日朝鮮・韓国人全てを差別するもので、到底許せない」とし、「いかなる情勢となろうと将来の友好のため人道支援は続ける」と語った。
 ハンクネットは約30名の世話人からなる日本の人道支援NGO。1999年6月の発足以来、日本各地で朝鮮の食糧難を報告する集会を催し、集まったカンパによりピョンヤン市育児院などの孤児にこれまで5トンの粉ミルクを寄附している。

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「外国為替法」改悪、「特定船舶入港制限法」および
「再入国禁止法」制定に反対する声明

1. 朝鮮制裁法案は歴史的愚策かつ反人道主義的である

自民党・公明党・民主党の三党は、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対する経済制裁を目的として、朝鮮への送金停止を可能にする「外国為替法」改正案を今の第159回通常国会に提案し、1月29日衆議院を通過させた。さらに、万景峰号の入港を禁止・制限する「特定船舶入港制限法」を提案する予定である。また、民主党の西村眞悟衆院議員は、永住外国人の再入国を禁じることができるようにする「再入国禁止法案」を拉致議連総会で提案した。

私たち朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパンはこれらの法案に断固として反対する。在日朝鮮・韓国人の少なからぬ人々が朝鮮に血縁を持ち、いわゆる離散家族となっているのは、日本の朝鮮植民地支配と、無責任な戦後処理、半世紀以上も朝鮮と国交を結ばずに来た敵視政策の結果である。

この歴史的経緯を無視したこれらの法案は、在日朝鮮・韓国人の家族や親戚の物心の絆を断ち切るという非人道的な制裁措置であり、在日朝鮮・韓国人を人質にするという稚児的で犯罪的な措置と言わざるをえない。また、東アジアの平和構築を図ろうとする近隣諸国の政府や市民、何より食糧難に苦しむ朝鮮に人道支援を行っている諸団体の努力を踏みにじり新たな緊張の火種を持ち込もうとする時代錯誤の冷戦的発想である。

2. 在日韓国・朝鮮人の歴史的経緯

日本の植民地支配政策は、朝鮮の主権を奪い、朝鮮人の尊厳を奪い、土地を奪い、食糧を奪い、資源を奪い、労働力を奪い、生命を奪った。そのため朝鮮で生活の途を閉ざされた朝鮮人は、故郷を離れる以外に生きる術がなった。そこで朝鮮半島北部に住んでいた人たちは中国北東部地域へ、南部に住んでいた人たちは日本に移住を余儀なくされた。

しかし、そのような朝鮮人に対して、移住先の日本が待ち受けていたのは朝鮮人に対する排外と敵対であった。1923年の関東大震災時、「朝鮮人が井戸に毒を入れた。放火にくる。」という流言蜚語を信じた日本民衆によって、6千人とも7千人ともいわれる無実の朝鮮人が虐殺される事件が引き起こされた。民族差別は日常的であった。

そして、1945年、日本の敗戦に伴い、それまで日本の統治下にあった「朝鮮」は北緯38度線以南をアメリカに、38度線以北をソ連に分割占領された。日本の植民地支配がなかったならば、連合国による占領はなかったし、まして分断統治はなかった。カイロ宣言で「朝鮮人民の奴隷状態に留意し、やがて朝鮮を自主独立のものにする決意を有する」と表明したアメリカであったが、ソ連を敵国とした冷戦時代を迎えるに至り、解放直後からさまざまな形で行われた朝鮮人自身の建国運動を弾圧し、朝鮮の自主独立の機会を奪った。

こうした祖国の政情不安もあり、もともと朝鮮で生活の場を奪われ、帰るあてのない朝鮮・韓国人たちの多くが日本に留まらざるを得なかった。その後、朝鮮戦争を経て、1959年からは朝鮮への帰国運動が始まり、貧困と日本人による差別に苦しむ約9万3千人の朝鮮人たちが祖国建設の夢を抱いて朝鮮に移り渡った。当時の日本政府も世論も「居住の自由を保障する」という「人道的」名目で帰還運動を推し進めたものの、朝鮮との国交を断絶したまま今日に至っている。在日朝鮮人の粘り強い闘いによって再入国が一般的に認められ、朝鮮との自由往来が可能になったのも、ようやく70年代に入ってからであった。

このような歴史と人権を無視した日本政府の在日朝鮮人と朝鮮に対する政策の下、制限限度内の外国為替法で保障された送金や万景峰号の往来によって、かろうじて在日朝鮮・韓国人の家族の絆が結ばれてきたのである。

以上のように、在日韓国・朝鮮人が生まれた歴史的経緯と、彼らの家族が日本と朝鮮の間で離れ離れとなったいきさつを顧みるなら、朝鮮への送金や支援物資の輸送を禁止し、祖国訪問を妨げるこの度の法案は、誰にも侵されない権利である家族同士の営みを侵害するものであり、在日朝鮮・韓国人に対する人権蹂躙法であるといって差し支えない。また、経済制裁と在日朝鮮・韓国人に対する人権蹂躙が、「不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立する」ことを謳った一昨年の平壌宣言の精神に反することは言うまでもない。

3. 民間人道支援に対する妨害行為

周知のように朝鮮では90年代半ばから深刻な食糧難にあり、未曽有の餓死者・病死者が出ている。特に子どもへの影響が大きく、慢性栄養失調は子どもの4割にも上る。現在まで国際機関や各国政府、NGOにより毎年200億円近くの大規模な人道支援が続けられている。

「死に往く者を見捨ててはならない」という人道主義と両国間の歴史的和解という外交上の課題を鑑みれば、本来日本政府が自ら積極的に人道支援を行うべきである。にもかかわらず、2000年まで行ってきた余剰米の寄附を日本政府は排外主義的な国民世論と外交上の駆け引きのため中断している。現在日本からは我々のような人道支援団体と在日朝鮮人団体、在日韓国人団体などが小規模ながらも支援を続けている。

今回の法案は、こうした民間次元での支援すら困難にさせるものである。支援を最大限効果的にするためには、支援受け入れ側との綿密な調整と信頼関係の醸成が不可欠であり、そのためには日朝間の往来が保障されなければならない。「再入国禁止法」は支援に携わる在日朝鮮・韓国人が朝鮮を訪問し、これらの活動を行うことを阻むものである。

また日本からの支援物資の多くは万景峰号により朝鮮に送られている。私たちも粉ミルクなどほとんどの物資を同船で支援対象者に届けている。「特定船舶入港制限法」は支援物資の円滑な送付という支援活動で最も基礎となるものを直接的に妨害するものである。また同法は無害交通権の保障を締約国政府に義務づけた海洋法に関する国際連合条約第24条1bに明確に違反するものである。

政府次元での人道支援を行わないばかりか、我々の人道支援を窮地に陥らせる政策を採る日本政府に満身の怒りとともに抗議する。このような政策が実施されれば、数年に渡る人道支援の結果救われた多くの命を奪うことになる。その意味でこれは人道主義に対する挑戦であり、そこに見える「相手国の人民は死んでも構わない」という徹底した敵視政策は準戦争行為にも等しいと言わねばならない。日本政府は過去の侵略の罪を無視するばかりか、更なる人道的犯罪を起こそうとしているかのようである。また、こうした政府の姿勢を正すことのできない日本国民にも道義的責任が帰せられるだろう。

歴史と国際情勢に対する日本人の無知と、マスコミに煽られた「国民感情」の高まりに付け込んだ今回の法案は、日朝間の対話や信頼関係を構築する外交的機会を日本が自ら捨て去り、朝鮮との政治的・軍事的緊張を高め、かえって拉致事件の解決をこじらせるだけでなく、朝鮮民族との歴史的和解を永久に遠ざけてしまう暴挙である。私たちは直ちにこの法案の廃止を求める。

  2004年2月5日
朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン
(略称:ハンクネット・ジャパン)
代表世話人 竹本 昇

三重県上野郵便局私書箱37号
電話090-8860-9961
jimukyoku@hanknet-japan.org
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